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東京高等裁判所 平成12年(行ケ)1号 判決

原告

中央食糧株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁理士

被告

特許庁長官C

指定代理人

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1請求

特許庁が平成11年審判第1405号事件について平成11年11月25日にした審決を取り消す。

第2前提となる事実(争いのない事実)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成8年12月10日、「カリフォルニアこまち」の文字を横書してなる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を商品及び役務の区分第30類の「米」として商標登録出願(平成8年商標登録願第138849号)をしたが、平成10年12月10日に拒絶査定を受けたので、平成11年1月21日、拒絶査定不服の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成11年審判第1405号事件として審理した結果、平成11年11月25日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年12月8日に原告に送達された。

2  審決の理由

別紙審決の理由の写しのとおり、本願商標は、「こまち」の文字と「小町」の漢字を上下二段に書してなり、指定商品を旧第33類「粉類、その他本類に属する商品」とする昭和60年12月2日商標登録出願に係る商標(昭和63年5月26日登録、登録第2049806号、以下「引用商標」という。)と、「コマチ(小町むすめ)」の称呼・観念を共通にする類似の商標であり、本願商標の指定商品は引用商標の指定商品中に包含されているから、商標法4条1項11号に該当し、登録することができないと認定、判断した。

第3原告主張の審決取消事由の要点

本願商標からは、「カリフォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」なる一連の観念のみが生ずるというべきであるから、本願商標から単に「コマチ(小町むすめ)」の称呼・観念をも生ずるとした審決の認定判断には誤りがあり(取消事由1)、また、原告が本件審判の請求時に、引用商標が登録された後に「地名」と「こまち」あるいは「小町」の文字を一連に組み合わせた商標が登録されている例を証拠として提出し、本願商標を特別にこれらの登録例と区別して拒絶する理由は見当たらないと主張したの対して、審決は単に「事案が違う」とのみ記載して、その明確な理由を示しておらず(取消事由2)、違法であるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1

(1)  本願商標から生ずる観念

審決の理由中、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字は片仮名であり、「こまち」の文字は平仮名であるから、視覚上、それぞれの文字部分に分離して看取されるものであること、カリフォルニアがアメリカ合衆国太平洋岸の州であり、我が国との関係が密接であること、カリフォルニアにおいて農作物の栽培も盛んであり、同州で栽培される米をカリフォルニア米と称していることは争わない。

しかし、審決が、取引者、需要者が「カリフォルニア」の文字部分をしてカリフォルニアで栽培した米、すなわち、商品の品質、産地等を表示するにとどまり、「こまち」の文字部分をして自他商品の識別標識としての機能を果たすものと理解し、認識するとして、本願商標と引用商標は「コマチ(小町むすめ)」の称呼・観念を共通にすると認定、判断している点には誤りがある。

なぜならば、「こまち」の文字からは、「その土地で評判の美人、美しい娘」等の観念を生じ、「こまち」なる言葉は、通常、地名などと組み合わされて使われることが多く(例えば、浅草こまち、東京こまち等)、日常会話においては単独ではほとんど使われない(例えば、「あの娘は小町だ」等とは使われない。)から、本願商標をもってしても、「カリフォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」なる一連の観念のみが生ずるものと認められるのである。

特に、本願商標の指定商品の米に関して、現在「こまち」を構成文字とする標章として「あきたこまち」が有名であるが、重要者・取引者は、米の産地として有名である秋田県を産地として観念することなく、「あきた」と「こまち」とを一連に観念しており、市場でも、「あきたこまち」を米の品種の一つとして観念して、「茨城県産あきたこまち」などと表示した商品も流通しており、本願商標を使用した場合でも、米の新たな品種と観念することはあっても、特別「カリフォルニア」の地名を「こまち」と分離して産地表示であるとしか観念できないとはいい難い。また、過去の登録例として、「沖縄こまち」(甲第4号証)や「加賀こまち」(甲第10号証)が存在するが、これらも漢字と平仮名の文字として、視覚上分離して看取されるにもかかわらず登録されているのである。

(2)  他の登録例

引用商標の登録後であっても、「地名」と「こまち」あるいは「小町」の文字を一連に組み合わせた商標(いずれも指定商品を旧第33類とするもの)として、「沖縄こまち」(甲第4号証)、「新潟小町」(甲第5号証)、「筑波小町」(甲第6号証)、「越後小町」(甲第7号証)、「阿波小町」(甲第8号証)、「野田小町」(甲第9号証)、「加賀こまち」(甲第10号証)が登録出願され、いずれも審査において拒絶理由通知が発せられることなく登録されている。

これらの商標も、米など穀類の産地として知られている地名と「小町」あるいは「こまち」の文字を組み合わせたものであり、とりわけ、米は日本全国何処の地においても採れることは周知で、新潟は米所として特に周知であるから、これらの登録例について、審決と同様の理由を適用すれば、「沖縄」や「新潟」などの文字から米などの穀類の産地を認識するには何らの困難性を伴わないというべきであり、審決のいう「事案の違い」は見当たらない。それにもかかわらず、これらの商標が登録されていることは、これらの登録商標と引用商標とは識別し得るという事実があるからであり、これらの過去の登録の時点と、本件における審決の時点とでは、審査基準や認識の違いがあるとは考えられない。

(3)  被告の主張に対する反論

被告は、「こまち」あるいは「小町」の文字は昔からある古風な印象を与える用語であり、どちらかといえば日本的情緒をもつ美人を指すと理解されるものであり、日本の地名を冠して使用される例が多くみられるのに対し、本願商標のように外国の地名と組み合わされて使用される例は極めて少なく、希有な感を免れない旨主張している。

なるほど、「こまち」「小町」の語は、被告主張のように、昔の日本語としては日本の地名などを冠して使われたので、昔の時代には日本的情緒をもつ美人を指すと理解されていたこともあるやに推測され、また、今日のように外国との交流が盛んでない時代には外国の地名を冠して使われる事例などは少なかったかと思われる。

しかしながら、現今においては、「こまち」「小町」の語は、一般世人をして日本的情緒をもつ美人を指すと誰もが理解されるほど日本的情緒をもつ用語として日常的に頻繁に使われておらず、まして、この語が外国の地名を冠して使われないとか、日本的情緒をもつ美人のみを意味し、外国の美人を表すような使われ方はしないというような確たる観念も現実に存在しない。

また、今日において、「こまち」「小町」の語が日本の地名を冠して使われる例が多く、外国の地名を冠して使われる例が少ないと比較考量するほどその使用例が数多く需要者に知られているとは思われない。

とりわけ、本願商標の指定商品である米の需要者層は、主として主婦、自炊生活者、米飯を提供する飲食業者であって、必ずしも「こまち」の言語に精通している学者や知識人ばかりではないのであるから、被告主張のように、「こまち」の語を一般的日本語の辞書に記されている以上の意味にまで考究して理解しているとは到底思えない(現今では著名な米の品種名ないしブランド名としての「あきたこまち」に一部使われている語であるぐらいの認識はあるものと考えられる。)。

したがって、このような需要者において、その多くが現今では日常的な言葉として使われていない「こまち」の語について、被告主張のような昔の時代背景を勘案しながら日本的情緒をもつ美人を指すかのようにその持つ意味を解釈し、そのように誰もが明確に理解していると客観的に断定することができる根拠もないといわざるを得ない。

してみれば、本願商標にその指定商品の需要者が接した場合に、「こまち」が外国の地名と組み合わせて「カリフォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」、「カリフォルニアの美人」等と一連の熟語として理解することなく、その組合せに違和感をもち、「カリフォルニア」を米の産地としてのみ観念するに至るとは到底断定し得ない。

(4)  以上によれば、本願商標からは、「カリフォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」なる一連の観念のみが生ずるというべきであるから、本願商標から単に「コマチ(小町むすめ)」の称呼・観念をも生ずるとした審決の認定判断には誤りがあり、審決は違法であるから取り消されるべきである。

2  取消事由2

原告は、本件審判の請求時に、引用商標の登録後に「地名」と「こまち」あるいは「小町」の文字を一連に組み合わせた商標が登録されている例を証拠として提出し、本願商標を特別にこれらの登録例と区別して拒絶される理由は見当たらないと主張していた(前記1の(2)参照)。

しかるに、審決は、単に「事案が違う」とするだけで、本願商標とこれらの商標とで具体的にどのように異なっており、どのような理由で原告の主張を採用することができないのかについて、何人にも必ずその意味が正確に理解できるというほどに明確な理由を提示していない。

被告は、後記第4の被告の反論のとおり、本件訴訟において、その具体的理由を明らかにしたが、単に「事案を異にする」という表現だけで、そのような具体的な理由をだれもが確信をもって理解することができるという確証は断じて得られるものではない。

事実、原告は、この「事案を異にする」という意味が不明であるために本件訴訟を提起せざるを得なくなったのであり、もし審決においてその具体的な理由が提示され、原告において仮にこれに納得したならば本件訴訟を提起しなかった事態もあり得るのである。

このように、審決の理由の記載には不備があり、違法であるから、取り消されるべきである。

第4被告の反論の要点

1  取消事由1に対して

(1)  本願商標から生ずる称呼、観念について

商標の類否の判断にあたり、商標中に、商品の産地、品質等を表示して自他商品の識別標識としての機能を果たさない文字等を有する場合には、取引上、その機能を果たす文字等をもって当該商品を識別するのが実情であり、経験則であって、このような商標の類否判断において、自他商品識別を果たす文字等が有する外観、称呼又は観念をもって類否を判断するという、いわゆる要部観察の手法が確立されている。

これを本件についてみると、本願商標は、その構成中、片仮名の「カリフォルニア」の文字と平仮名の「こまち」の文字は、原告も認めるように、視覚上分離して看取されるものである。

そして、「カリフォルニア」の語は、アメリカ合衆国の州名を表すものであることは、我が国の国民にも広く知られているところであり(乙第2号証。枝番を含む、以下同じ。)、カリフォルニアで生産された米を「カリフォルニア米」と称し、我が国へも輸入され、市場に出回っていることは、例えば、1991年12月21日付け朝日新聞、1993年4月28日付け日本経済新聞、1993年10月23日付け朝日新聞、1993年10月28日付け朝日新聞、1997年2月14日付け日経産業新聞、1998年11月11日付け日本経済新聞などの記事により明らかである(乙第3号証ないし第8号証)。また、1997年8月1日付け日本経済新聞には、「おいしいアメリカ」の記事中に「カリフォルニア米のあきたこまちを使ったジャンバラヤもあって………」の記載(乙第9号証)も認められる。

そうすると、本願商標をその指定商品の「米」について使用した場合、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字は、商品の品質、産地を表示したものと理解されるにすぎないものと認められる。

一方、本願商標中の「こまち」の文字部分は、「(その町で評判の)美しい娘、小町娘」を意味する語(株式会社三省堂発行、新明解国語辞典・第5版、乙第1号証)として、一般に広く知られているものであるところ、これが本願商標のように「カリフォルニア」の文字と結合することにより、全体として親しまれた観念が生ずるというものではない。かえって、このように、この語が外国の地名と組み合わされた場合には、後記2のとおり、米国の地名である「カリフォルニア」の文字と日本古来の言葉である「こまち」とは、それぞれ異なった別個の観念を有するものとして印象付けられるものといえるから、これを一体不可分のものとして把握、認識されることはむしろ少なく、「カリフォルニア」の文字部分が、指定商品の「米」について、自他商品の識別機能を有しないことも相俟って、本願商標に接する取引者、需要者は、「こまち」の文字部分を自他商品を識別する標識として認識する場合が多く、「こまち」の文字部分に着目し、これより生ずる「コマチ」の称呼をもって商品の取引にあたるというべきである。

このように、本願商標は、その構成文字全体を読んだ場合の「カリフォルニアコマチ」の称呼を生ずるほか、「こまち」の文字部分より単に「コマチ」(小町むすめ)の称呼、観念をも生ずるものといわなければならない。

したがって、引用商標は、その構成文字より「コマチ」(小町むすめ)の称呼、観念を生ずること明らかであるから、本願商標と引用商標とは、「コマチ」(小町むすめ)の称呼、観念を共通にする類似の商標であり、かつ、本願の指定商品は引用商標の指定商品中に包含されているものであるから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断に何ら誤りはない。

(2)  原告主張の他の登録例について

原告は、「地名」と「こまち」あるいは「小町」の文字が結合された過去の登録例を挙げ、本願商標について、これら登録例と区別して拒絶される理由は見あたらない旨主張している。

しかしながら、本願商標中の「地名」と原告提示の各登録例に係る商標中の「地名」とは同じ「地名」とはいえ、前者は外国の地名であり、後者は日本の地名(旧国名を含む、以下同じ。)である点で明らかに異なるものである。

そして、両者に共通する「こまち」あるいは「小町」の文字は、前記のとおり「(その土地で評判の)美しい娘、小町娘」を意味する語として、昔から地名などを冠して使われることが多く(この点は原告も自認している。)、その場合、「当該地で評判の美しい娘」という一連の意味合いが極く自然に生じ、不可分一体の語句として理解されているものである。

ところで、この「こまち」あるいは「小町」の文字(語)については、もとより昔からある古風な印象を与える用語であり、どちらかといえば日本的情緒をもつ美人を指すと理解されるものである。したがって、原告提示の各登録例に係る商標のように、日本の地名を冠して使用される例が多くみられるのに対し、本願商標のように外国の地名と組み合わされて使用される例は極めて少なく、希有な感を免れないものである。

そうとすると、日本の地名に「こまち」あるいは「小町」の文字が組み合わされた場合には、「当該地で評判の美しい娘」の意味合いが自然に生じ、かかる意味合いから一体不可分の語句として理解されるのであり、このような場合に、地名と「こまち」あるいは「小町」とに分離し、地名部分を商品の産地と関連付け、その上で該部分を捨象して取引にあたるとみるのは、取引の経験則に反し、不自然というほかはない。

一方、本願商標のように、外国の地名に「こまち」あるいは「小町」の文字が組み合わされた場合には、かかる用例の少なさゆえに、その結合関係は、日本の地名ほどには強固ではなく、これを常に一体不可分のものとしてみなければならない理由もないものである。そして、本願商標については、「カリフォルニア」と「こまち」と分離して考察すべき理由が存することは、審決で説示し、また、前記(1)で示したとおりである。

したがって、本願商標の認定、判断に当たって、本願商標を原告提示の各登録例と同様に論じなければならない理由はなく、審決において、本願商標と原告提示の各登録例について「事案を異にする」とした点に誤りはない。

(3)  その他の原告の主張について

原告は、米の需要者層について、主として主婦、自炊生活者、米飯を提供する飲食業者であって、必ずしも「こまち」の語に精通している学者や知識人ばかりではないから、今日では日常的に使用されていない「こまち」の語は誰でも明確に理解できるという根拠はない旨主張する。

しかしながら、我が国おいて、米は主食として古くから食されているものであり、今日、食生活の洋風化が進んでいるとはいえ、依然として主食として世人全般に関心をもたれている食品であり、したがって、その需要者層は原告主張の者に限られるものではなく、また、その取引業者も存在することも明らかである。そして、「こまち」は、日常的に使用される語として我が国において定着していることは、前記のとおりであるから、格別言語に精通している学者や知識人でなくてもその意味するところは一般によく知られているというべきであり、原告の上記の主張も失当である。

2  取消事由2に対して

前記1のとおり、本願商標は、これを構成する「カリフォルニア」の文字部分と「こまち」の文字部分とが、外観、観念上分離して看取されるばかりでなく、「カリフォルニア」の文字部分は、商品の品質、産地を表すものと理解されるから、「こまち」の文字部分に強い自他商品の識別力を有するのである。一方、原告の提示する登録例は日本の地名と、我が国において古来より親しまれている「こまち」若しくは「小町」の文字との組み合わせよりなるものであり、このような商標は、我が国の古来より慣れ親しんだ熟語的言葉として、書された文字全体が「当該地で評判の美しい娘」という一体的な意味合いを生じ得るものとして理解されるものである。

このように、原告の提示する登録例は、いずれも日本の地名に「こまち」あるいは「小町」の文字を組み合わせてなるものであり、外国の地名を冠してなる本願商標とは明らかに態様を異にするものであって、同等に扱うことができない。

したがって、本願商標とこれらの登録例とが「事案を異にする」とした審決の認定、判断に誤りはなく、また、本願商標の認定、判断に際して、原告提示の登録例の識別性や「こまち」もしくは「小町」との識別性が検討されなければならない理由はないから、原告の主張は理由がないものというべきである。

3  結論

以上のとおり、原告の主張はいずれも当を得たものでなく、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定、判断は正当であり、違法な点はないから、取り消されるべき理由はない。

理由

1  取消事由1について

(1)(ア)  本願商標の構成が「カリフォルニアこまち」の文字を横書してなり、その指定商品を第30類の「米」とするものであること、これに対して、引用商標が「こまち」の文字と「小町」の漢字を上下二段に書してなり、指定商品を旧第33類「粉類、その他本類に属する商品」とするものであること、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字は片仮名であり、「こまち」の文字は平仮名であるから、視覚上、それぞれの文字部分に分離して看取されるものであることは、当事者間に争いがない。

(イ)  そして、両者に共通する「こまち」の文字部分について、乙第1号証(株式会社三省堂発行、新明解国語辞典・第5版)及び弁論の全趣旨によれば、「こまち」の語は、美人の代表とされた小野小町の再来の意として、「(その町で評判の)美しい娘、小町娘」を意味するものとして一般に広く知られているものであることが認められる。

また、弁論の全趣旨によれば、この「こまち」という語は、昔から地名などを冠して使われることが多く、その場合、一般的には、「当該地で評判の美しい娘」という一連の意味合いが自然に生じて不可分一体の語句として理解され得るものであると認めることができる。

しかしながら、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字部分についてみると、カリフォルニアがアメリカ合衆国太平洋岸の州であり、我が国との関係が密接であること、カリフォルニア州において農作物の栽培も盛んであり、同州で栽培される米をカリフォルニア米と称していることについては争いがなく、乙第2号証ないし第9号証及び弁論の全趣旨によれば、「カリフォルニア」の語は、我が国と極めて密接な関係のあるアメリカ合衆国の州名を表すものとして周知であるところ、カリフォルニア州で生産された米が「カリフォルニア米」と称されて我が国にも輸入され、市場に出回っていることは広く知られており、「カリフォルニア」は、海外における米の産出地として著名となっていることが明らかである。そして、我が国のマスコミにおいて、例えば、「おいしいアメリカ」と題する記事で、カリフォルニア米のあきたこまちを使ったジャンバラヤを取り入れた日本の駅弁が紹介されるなどしている(1997年8月1日付け日本経済新聞、乙第9号証)。

他方、本願商標の構成中の「こまち」の文字についてみると、「こまち」あるいは「小町」の語は、本願商標の指定商品である「米」の著名な品種である「あきたこまち」の例にみられるように、日本の地名を冠して一連の語として使用されることが多いのに対し、本願商標のように、外国の地名と組み合わされて使用される例はいまだ乏しいことは顕著な事実である。

原告は、本願商標「カリフォルニアこまち」から「カリフォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」なる一連の観念のみが生ずるものと主張するところ、なるほど、地名と「こまち」との組合せからなる本願商標に接した場合、原告主張の上記のような観念を想起することもあり得るものと推認することができる。しかしながら、上記説示のとおり、外国の地名と「こまち」とが組み合わされて使用される例は極めて少ないこと、及び我が国においても「カリフォルニア米」が広く知られていることなどから、指定商品である「米」との関係では、本願商標の「カリフォルニア」の文字部分から米の産出地である「カリフォルニア州」を想起するか、「カリフォルニア産の米」すなわち「カリフォルニア米」そのものを想起する場合も少なくないものと認められ、原告が主張するように本願商標からは「カリフォルニアで評判の美人」あるいは「カリフォルニアの美しい娘」なる一連の観念のみが生するものと認めることはできない。

(ウ)  以上によれば、本願商標をその指定商品の「米」について使用した場合、それに接する需要者、取引者は、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字について、海外における著名な米の産出地であるカリフォルニア州を表示したものと理解するか、カリフォルニア米を想起する場合が少なくないであろうから、単に産地、品質を表示するものとして出所識別機能を欠いており、その指定商品の識別の標識としては、「こまち」の文字部分に着目して、これより生ずる「コマチ」の称呼をもって商品の取引に当たることが多いであろうことを推認することができる。

(エ)  したがって、本願商標は、その構成文字の全体を読んだ場合の「カリフォルニアコマチ」の称呼を生ずる他に、「こまち」の文字部分より、単に「コマチ」の称呼、「小町娘」の観念をも生ずるものと認められ、本願商標と引用商標とは、「コマチ」、「小町娘」の称呼、観念を共通にする類似の商標であり、かつ、本願の指定商品は引用商標の指定商品中に包含されているから、本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定、判断には誤りがない。

(2)  原告は、「地名」と「こまち」あるいは「小町」の文字が結合された過去の登録例を挙げ、本願商標について、これら登録例と区別して拒絶される理由は見当たらない旨主張している。

しかしながら、原告提示の各登録例に係る商標中の「地名」は、いずれも日本の地名である点で、外国の「地名」である本願商標の構成と異なるものであり、前記(1)のとおり、「こまち」あるいは「小町」の語は、日本の地名を冠して一連の語として使用されることが多いのに対し、本願商標のように、外国の地名と組み合わされて使用される例はいまだ乏しく、一般的であるとはいえないこと、また、カリフォルニア州は海外における米の著名な産出地であることからすれば、日本の地名に「こまち」あるいは「小町」の文字が組み合わされた場合は、「当該地で評判の美しい娘」の意味合いが自然に生じ、かかる意味合いから一体不可分の語句として理解され、一体的に称呼、観念されることが容易に推測されるのに対して、本願商標がその指定商品の米に使用された場合には、それに接する需要者、取引者は、前記(1)のとおり、本願商標の構成中の「カリフォルニア」の文字について、単に、海外における著名な米の産出地であるカリフォルニア州又はカリフォルニア米を表示したものと理解するにとどまり、その商品の識別の標識としては、むしろ「こまち」の文字部分に着目して、これより生ずる「コマチ」の称呼をもって商品の取引に当たることも多いと推認されるから、原告主張の登録例の存在は、前記(1)の判断を左右するものではなく、原告主張の登録例について「本件とは事案を異にする」とした審決に誤りはない。

(3)  以上のとおり、原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2について

前記1のとおり、本願商標と原告が主張する登録例とが「事案を異にする」とした審決の判断に誤りはないところ、審決の理由中において、商標登録出願に係る商標の登録の可否について説示するに当たって、当該商標と審判の請求人が指摘する過去の登録例における商標の構成が異なる場合に、どの程度その認定、判断の異同等について記載するかについては、その審判体の裁量に広く委ねられており、特段の事情がない限り、その説示の仕方が簡略であることが直ちに審決を取り消すべき違法性に結びつくものではないというべきである。

そして、本件における審決の理由の全体の記載内容及び本願商標と原告主張の登録例の商標の構成の差異を総合すると、本願商標と原告主張の登録例について、「事案を異にする」とした審決には違法な点は認められないというべきであり、その理由の不備を主張する原告の審決取消事由2も理由がない。

3  結論

以上のとおり、原告主張の審決取消事由はすべて理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)

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